吉祥寺の井の頭公園を臨む一軒家のフレンチレストラン「芙葉亭」(武蔵野市吉祥寺南町1)が5月6日、閉店した。
オーナーの中山葉子さんに子どもが生まれた後、実家を改装し、1988(昭和63)年にオープンした同店。しゃれた洋館の外観やらせん階段のある内装などが人気を呼び、吉祥寺までわざわざ出向く人たちでにぎわったという。バブル崩壊後、価値観が移ろい、人々の飲食への考え方も変わったが、スタイルを貫いて営業を続けてきた。コロナの陰が店にも出始めた頃、「感覚的に怖さ」を感じて、今回は乗り越えられないと4月11日に閉店を決断した。
閉店を案内した後、ローストポークやズワイガニとウドのテリーヌなどのテークアウトを買い求める行列ができ、3密になるため、4月23日に販売を中止した。ローストビーフ弁当も閉店までの分が予約完売。中山さんは連日、満席となるランチとディナーへ切れ目なく接客したという。「こんな小さなレストランを取り上げてくれて」と取材にも追われた。
33年の間の思い出があふれる店を閉める最後の日を迎えても、「感慨に浸っている暇はない」と中山さん。「今までもそうだったが、経理、事務、用務と経営を一人でこなしている。従業員への支払い手続きの書類も書かなければならないし、残務処理に忙殺されている」。
吉祥寺のランドマークのように街の人に愛されてきた同店。「生まれたときからここで暮らし、結婚してからも同じ場所でレストランを営んできた。この街を出たことがないし、吉祥寺しか知らないから」と住み家でもある建物は取り壊わさず残すという。「借り手がつけば店の雰囲気を受け継いだままレストランとは違う形で営業してもらえたら」と山中さん。「井の頭公園の木々の中に立つ洋館でまた皆さんにお会いできたらいいわね」とほほ笑む。