吉祥寺の中道通りを入って100メートルほどの場所にあるビルの地下1階に、そば粉と水だけで手打ちした十割りそばを提供するそば店「吉祥寺越後屋」(武蔵野市吉祥寺本町2、TEL 0422-27-1698)がオープンして3カ月が過ぎた。
店主の坂場勝美さんは王子(北区)で130年続いたそば店の3代目。45年間、そば打ちを続けてきたが、「十割で作ったそばがこんなにおいしい」ということを伝えたいと思い、「観光地でもある」吉祥寺に店を移したという。
メニューは、せいろで出す「生粉(きこ)打ちそば」のみ。そば汁には、歴代続く「かえし」をかつお節と昆布でとっただしで割る「江戸だし」を使う。水は井戸水が含まれている武蔵野市の水道水を浄水して使用。せいろには、昔使っていた木製のそば徳利にあった「越後屋」の「越」の字を描いた。
19坪の店内は白が基調で、4人掛けのテーブル席4卓とカウンター席4席を設ける。壁には大正から昭和まで旧店で使った「そばとっくり」「そばちょこ」、そばを打つ木鉢を並べた。「内装はシンプルで女性に親しみやすくした」と坂場さん。
そばの品種はオープンから3回変えた。8月は「日本で一番おいしい」と常陸(ひたち)秋そば、9月初旬にはレラノカオリ秋新そば、9月下旬から「摩周そば」のキタワセを使う。「キタワセの摩周そばは、もっちりと甘くて香りの良いブランドそばで、ずっと使いたいが、今年は収穫量が薄かった。そば粉が無くなったら終了する」が、「この先はそのときに一番おいしい」と坂場さんが判断して決めたそば粉を仕入れて出す。そば粉は百年来の付き合いがある大手製粉会社から仕入れるが、注文を電話で受けてから粉にするという。
「冬場になって客足が鈍ったが、温かいそばにするともっちり感が消えてしまう」と、冷たいそばにこだわり、「居酒屋のようにはしたくない」とメニューはそば一点のみを貫く。酒はビール、日本酒、焼酎の3点で、日本酒は「そば湯の味を変えないから」と選んだ「菊正宗」を出す。
店のオープンに合わせて吉祥寺に住まいも移した坂場さんは「そば屋は男性の店というイメージがあるが、子どもとお母さんとおばあちゃんが入れる店を目指している。今はそばが一番おいしい季節。収穫したて、石臼で粉がひきたて、打ちたて、煮立ての『四たて』で本当のそばの食感を家族連れで味わってほしい」と意気込む。
営業時間は11時~19時30分。