井の頭自然文化園(武蔵野市御殿山1、TEL 0422-46-1100)彫刻館B館で6月25日、講演会「アジアゾウについて知る-飼育の現状とはな子からわかったこと-」が行われた。179人が参加した。
動物園で死亡した動物の一部は研究機関に寄贈され、科学の発展に役立てられる。2016年に69歳で死亡した同園のアジアゾウ「はな子」の遺体も、国立科学博物館に寄贈され骨格標本になった。
前半は「日本のアジアゾウ飼育、これまでとこれから」と題し、恩賜上野動物園でアジアゾウの飼育を担当し、アジアゾウ計画管理者も務める乙津(おとづ)和歌さんが登壇した。
「毎年『ゾウ会議』を行い、飼育するゾウの状況把握や管理、魅力を伝える普及活動、保護や飼育の安全性の向上などに務めている」と乙津さん。「一時は300にも及ぶ種類のゾウが繁栄したが、現在は生息地も減り3種類のみ」とも。
「動物園としては1888(明治21)年に初めてゾウが来た。動物園の増加とともに飼育数も増えたが、戦時中の殺処分などで戦後残ったのは2頭だけ。その後贈られた一頭が『はな子』だった」と話す。「現在は32園78頭が飼育されている。ワシントン条約以降はゾウの導入が厳しくなったが、健康管理などの向上で長生きするゾウも増えてきた。ゾウが特別な存在としていつまでも元気な姿を見せられるよう、飼育と管理に注力していきたい」と締めくくった。質疑応答では「直接飼育」に対する「間接飼育」についての今後の在り方や、人工繁殖に向けた研究などについても言及した。
後半は、国立科学博物館に務める川田伸一郎さんが「はな子の骨格標本からわかること」と題し、実際に「はな子」の歯などを見せながら講演を行った。「一本しか残っていないと思われていたが、骨からは上下に歯が見られた。噛み合わせがうまくいかず、足に関節炎も認められた。高齢にしては非常にきれいな骨」などと解説し、「今後の研究に大型動物の骨格標本などデータ蓄積が多いに役立つ。得た成果を飼育現場に返せたら」とも。
2人は「『はな子』のペースに合わせて、飼育係や皆が守ったことが長生きにつながったのでは」「きちんと食べられるように支え続けた飼育員の支えが大きかった」と最後に感想を述べた。