特集

吉祥寺のART&CULTURE vol.2
街の文化を支え、街とともに育ってきたカルチャースポットめぐり

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カルチャーバナー

イベントや展示も開催する「OLD NEW SELECT BOOKSHOP百年」

 大正通りの2階にある古書店がOLD NEW SELECT BOOKSHOP百年。落ち着いた照明の中に並ぶライトグリーンの本棚が印象的だ。観音開きの大きな窓からは、吉祥寺の街を眺めることもできる。学校の図書館のような、どこか懐かしい雰囲気を感じさせる古書店だ。

 オーナーの樽本樹廣さんは啓文堂書店で5年にわたり、アート、音楽、思想のジャンルを担当。街の人々のコミュニケーションの場となるような本屋を作りたいという思いから、2006年の8月8日に「OLD NEW SELECT BOOKSHOP百年」を開店。今月には3周年を迎え、記念のセールも開催した。

 この土地を選んだのは、吉祥寺周辺には学生時代からよく通っていて、人の流れやどんな人が集まってくるかを知っていたため。ターゲットは樽本さんと同世代の20代後半~40代前半だ。店の商品がその同世代に「響いている、届いている」という実感があり、本を売り、本を買い取るというかかわり方の中で、来店客とともに本屋を作り上げている感覚があると話す。

 吉祥寺は以前と比べると30代以上のお金持ち層が多くなり、そういう人々を対象に年齢層を少し上げた店舗が増えてきたように感じるという。しかし「ジブリ美術館もあれば、いせやもあるのが吉祥寺。さまざまな店と共存し、街になじむ古書店にしていきたい」と話す。

 どんなジャンルもまんべんなく扱う、街のセレクトブックショップを目指してきたが、古本の売買だけでなく、小部数出版物や自費出版物、オリジナル雑貨、自主制作CDの委託販売もするほか、定期的に絵やイラスト、写真などの店内展示やイベントも行っている。

 「百年と一晩スナック」というイベントを定期的に開催し、積極的に来店客とかかわる場を設けてきた。次回9月4日の開催で20回目を迎える。入店費は400円(1ドリンク、本50円券付き)。現在、吉祥寺在住歴15年という高橋香織さんによる「『日々ごはん11』のための絵展」も開催している。9月7日まで。


OLD NEW SELECT BOOKSHOP百年
営業時間:月曜~金曜=12時~23時、土曜=11時~23時、日曜=11時~22時
定休日:火曜
Tel:0422-27-6885
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-2-10 MURATAビル2F
HP:http://www.100hyakunen.com/

小さくて特別な街の絵本専門店「TOM’S BOX(トムズボックス)」

 吉祥寺駅から徒歩約7分、東急百貨店の裏エリア、カレルチャペック紅茶店の奥にある絵本専門店が「TOM’S BOX」だ。店内は、ギャラリースペースと書店スペースに分かれており、月ごとに店にゆかりのある作家の展示を行っている。

 オーナーの土井章史(どいあきふみ)さんは、個人的な絵本の編集を数多く手がけてきた。「商業出版とは少し違って、『作家と遊んで作る』ことが僕にとってすごく面白くて。小ロットだからこそできる世界をたくさん作ってきた。そんな絵本ばかりをそろえた本屋があってもいいんじゃないかと思った」と店に対する考えを話す。

 吉祥寺のカレー屋「まめ蔵」のオーナーと友人だったことが関係して、この場所で15年前から営業している。「それまでは通販で売っていたが、手にとって見てもらいたかった」とオープン当時を振り返る。はじめは同じ敷地内に他の店もあり、今の店舗の半分のスペースで営業していたが、自然淘汰され今の広さになっていった。吉祥寺は「本当に目まぐるしく変わっているが、昔と比べて人は随分多くなった」としみじみと語る。

 土井さんの好きな作家は「おしゃべりなたまごやき」の長新太さん、「くまのこウーフ」の絵や「でんしゃえほん」などの井上洋介さん、「コッコさん」シリーズの片山健さん、「サルビルサ」のスズキコージさん、「ルフランルフラン」の荒井良二さんなど。

 「TOM’S BOX」は絵本やグラフィックが好きな人々の間で広く知られているので、遠方から同店を目指してくる人も少なくない。そんな来店客を「がっかりさせたくない」という土井さんは、作家とともに店舗のオリジナル雑貨も展開する。絵本のほかにマッチやピンバッチ、フリップブック(パラパラ絵本)などほかでは手に入らない小物雑貨が、この店の特別感を支えているようだ。

 展示スペースでは今までに、荒井良二さん、100%ORANGE、酒井駒子さんなど若者に人気のある作家の展示も開催してきた。9月1日からは、メグホソキさんの「女の子と花言葉 展」を開始する。「少女の密やかな心の内を花言葉に寄せて、女の子を描いた」(メグホソキさん)。同30日まで(最終日は18時まで)。写真は「及川賢治(100%ORANGE)」(2009年1月に開催)。


TOM’S BOX(トムズボックス)
営業時間:11時~20時
定休日:木曜
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-14-7
電話番号:0422-23-0868
HP:http://www.tomsbox.co.jp/

50年前から街の娯楽場だった映画館「吉祥寺バウスシアター」

 サンロード商店街の奥にあるのが、レトロな看板に親近感がわく「吉祥寺バウスシアター」。総支配人の本田拓夫さんは、昭和59年に現在の劇場に建て直しが行われる以前から、同館を見守り続けてきた。前身である武蔵野映画劇場から今の場所に移転し、「吉祥寺バウスシアター」がオープンしたのは昭和25年。今年で創業59年目を迎える。その当時、新宿より西の地域で上映されていなかったヨーロッパ映画を中心に公開し、「変わった映画を上映する映画館」と呼ばれていたこともあった。

 昭和59年に建て直した際には、ロードシアター館とミニシアター館も作り、映画の上映以外にも多目的ホールとしてライブや芝居も開催。「街と一緒に発展してきた」と本田さん。昔はフォークソング」やジャズの街として有名だった吉祥寺だが、最近はオールジャンルの音楽やアニメが面白いサブカルチャーの街として認知されてきている。

 吉祥寺の変わらない魅力は、「街がコンパクトで路地裏文化が発達しているところ」。これからは吉祥寺の南北の地域を合わせた、街全体としてのイベントを企画していきたいと考えているそうだ。

 「吉祥寺バウスシアター」と言えば、4年前からスタートした「爆音上映」。もともと劇場に設置されていた音楽ライブ用の機材を使用し、音の回線を変え、ライブ用の音響システムで音を出してみようという試みからはじまった、と同劇場の井手健介さん。通常の4~8倍の音量で上映するため、普通は聞こえない音が聞こえてきて「映画の見え方が変わってくる。全く別の意味が持ち上がってくるので、監督の意図がダイレクトに伝わってくる」と語る。

 同上映は相当な映画好きの間では有名だが、一般の人にも広めたいという。昨年からは昼間より上映を開始し、「爆音映画祭」というイベントも行ってきた。「同劇場としては、国際的なアニメイベント『吉祥寺アニメワンダーランド』にジブリ作品が参加してくれれば」と今後の街の動きに期待を込める。


吉祥寺バウスシアター
営業時間:映画によって異なる
定休日:なし
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-23
電話番号:0422-22-3555
HP:http://www.baustheater.com/

吉祥寺の中心にある美術館「武蔵野市立吉祥寺美術館」

 伊勢丹吉祥寺店FF館の7階に「武蔵野市立吉祥寺美術館」がある。武蔵野市は、1972年に日本画家・野田九浦さんの作品の寄贈以来、多くの作家から作品の寄贈を受けてきたため、武蔵野市長は3代にわたって同館の建設を検討。2002年の2月2日に開館して以来、若者から年配者まで幅広い層の市民に愛されてきた。

 来年の3月上旬に伊勢丹は閉店するが、「武蔵野市立吉祥寺美術館」は同じ場所に残る。館長の養田重忠さんは伊勢丹について、「吉祥寺の中心にあるので、ある意味シンボル的な店舗だった。歴史も長いので、市民の方はかなり寂しい思いをされていると思う」と話す。

 街全体に関して、「吉祥寺の街づくりのポイントは回遊性の高さだとよく言われている。必ずしも駅の近くに大型店舗があるというわけではなく、駅から若干離れたところに大型店舗があることによって、人が駅から回って地元の小さな店舗にも人が途切れることなく行く。このことが地元の個性的な店舗を育ててきたと従来から考えられてきた」と養田さん。

 次に入るテナントは未定だが、「ここに来る店舗は『吉祥寺のブランド』を決めるものとなるはず。市も、集客を維持し向上させていける、核となるようなテナントを入れたいと思っているのでは」と考えている。吉祥寺のイメージに合ったテナントが入ることで、従来の街の雰囲気が続いてほしいそう。

 「吉祥寺近郊に住んでいる人は、ワークショップもすぐ定員になるほど、知的好奇心が旺盛な方が多い。芸術に時間やお金を割いてもいいなという人が多いと感じる」という。同館は2007年には、「吉祥寺をイメージした和菓子」を公募し展示を行った参加型の企画展「味わいの芸術 和菓子」を通し、市民との関係を築いてきた。今年の春には、動物の絵画展「薮内正幸の世界展」の関連イベントとして井の頭自然文化園でイベント「飼育係による動物のとっておきのお話」も行われた。

 同館は今後も今までのように、従来からの美術ファンに向けた企画、ある程度若い方に向けた企画展を行う予定。特定のジャンルに特化するということは今後もなく、階下の新たなテナントによって美術館の傾向が変わっていくことはない。

 現在は、日本画家・上村淳之(うえむらあつし)さんの「上村淳之展-唳禽(れいきん)を描く」が開催されている。9月27日まで。10月3日からは「写真と民俗学 内藤正敏のふたつの思考」がはじまる。11月8日まで。写真は「原研哉デザイン展 『本』 友人、原田宗典がモノ書きだったおかげで」(1月24~3月1日に開催)。


武蔵野市立吉祥寺美術館
営業時間:10時~19時30分 (音楽室=9時~21時)
定休日:毎月最終水曜日、年末年始、展示替及び特別整理期間
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-16 FFビル7階
電話番号:0422-22-0385
入館料:大人・大学生・高校生・中学生=100円、小学生以下・65歳以上・障害者=無料
HP:http://www.musashino-culture.or.jp/a_museum/

吉祥寺めぐりの小さなおみやげたち

 気軽に買える文具やミニ本からお酒まで、粋な「おみや」を集めました。

写真左上から右に

百年 「暮らしの手帖 第一世紀」(1050円)、「まめ本」(各150円) トムズボックス トムズボックス謹製マッチ」(126円)、「謹製ピンバッチ(よしおくん/100%ORANGE)」(630円)、宇野亜喜良「フラップブック」(630円) 吉祥寺バウスシアター 「爆音ビール」(500円) 吉祥寺美術館 萩原英雄「一筆箋」(400円)

■編集後記

 今回もただの書店、劇場、美術館じゃ終わらない、絶妙なバランスや独特のこだわりを持った場所とオーナーさんに出会えました。この特別感は実際に行ってみないとわからないと思うので、ぜひとも足を運んでみてほしいです。今後伊勢丹の閉店に続き、今秋からはじまる吉祥寺駅の改修工事など街としての大きな動きがありますが、どの取材先にもこのまま長く吉祥寺を見守り支えていってほしいと思います。