特集

吉祥寺ART&CULTURE vol.1
ギャラリー×ショップ、コンプレックス展開が魅力のアートシーン

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カルチャーバナー

壁一面の大きな窓から光が降り注ぐ「ギャラリーfève」

36店内

 大正通りを少し入ったところにある、淡い桜色の四角い建物。地下にはパン専門店「Dans Dix ans」、1階にはアパレル店舗「TONE」、その2階にあるのが「ギャラリーfève」。オーナーの引田ターセンさん、かおりさん夫婦は、実はオープン当初、ギャラリーを開こうとは考えていなかった。今まで会社員だったターセンさんは、真逆のことがしたいと思い、パン専門店を開こうと考えていたという。しかし、最初の出会いが決め手となり、縁が縁を呼び2003年にギャラリーを開く運びとなった。

 同ギャラリーは、壁一面窓で光が多く入る空間。季節や時刻によってギャラリー内の雰囲気も大きく変化する。同ギャラリーでは、これまでに「マーガレット・ハウエルの『家』出版記念展」「松浦弥太郎 写真展」など、質の高い展示を行ってきた。

 常々「人を感動させるのは本当に難しい」と感じているかおりさんのポリシーは、中途半端な展覧会は行わないこと。「アートは人を幸せにするから、本当にすてきな作家さんの展示を続けて、高い感度を保っていきたい」と話す。

 「吉祥寺は人の温かみを感じることができて、オーナーの顔が見えて買い物ができるのがいい。個性的な店舗とのふれあいの中で、吉祥寺を変えていければ。今後は、本当にいいもの、本当においしいもの、長く使えるものが売れる時代になると思うんです。だからこそ、吉祥寺が持つ温もりのある文化がますます重要になっていくのでは。常に感度を高く持ち続けたいですね」という。

 「『作りたくて仕方ないものがある』という熱意がないと、なかなか人は感動させられない。自分の思いや作品をうまくストーリーにして伝えることができればいいですよね。そして『ギャラリーfève』を通して、私たちが得てきた知識や知恵を、多くの若い人に伝えていきたい」とも。

 最近気になる作家は、「woky shoten(ウォッキー ショウテン)」の沖潤子さん。ソニア・パークさんのブランド「ARTS&SCIENCE」の残り布を使って作るカラフルな小物や鞄は「作りがとても丁寧で、本当にすてき」。

 ほかにも2月11日からの展示「江面旨美 バッグ展『革のバッグLesson1,2』出版記念」(スタイリング・高橋みどりさん)も楽しみにしているという。


ギャラリーfève(ギャラリー フェブ)
営業時間:12時~19時
定休日:水曜(展覧会開催中以外は休廊)
Tel:0422-23-2592
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-28-2 2F
HP:http://www.hikita-feve.com/

手作り雑貨とギャラリースペース「にじ画廊」

 大正通りの元フレッシュネスバーガーだった場所にある「にじ画廊」は、1階が雑貨店、2階がギャラリーの複合ショップ。

 以前はバーガーショップを経営していた、同画廊オーナーの吉田豪さんはアート作品を見るのが好きだったこともあり、元あったバーガー店で働いていたイラストレーターのぼたんさんと手を組み、5年前にバーガー店のオーナーから転身した。

 同画廊2階のギャラリーでは、イラストレーターやクリエーターの作品を中心に展示を行っている。1階では手作り系作家の雑貨やギャラリーで展示を行うアーティストのグッズなど、多数取り扱っている。過去には「みづゑ展」「水森亜土展-♪Bei mir bist du schon ステキナアナタ!-」「MMMT・本秀康 しまおまほ 友沢ミミヨ Tシャツ展」などを開催してきた。

 アートに関心がある人はもちろん、ない人でも入りやすい雰囲気作りを意識しているため、「お客さんは若い人ばかりではないんです」と吉田さん。取材時に開催されていた堀道広さんの企画展「サラダ館」は「意外にもおじさん、おばさんに受けていた」という。

 企画を担当しているぼたんさんは、吉祥寺について、「昔は庶民的だったけれど、特にこの地域はファッショナブルになってきた」と話す。吉田さんは「サブカルの香りが減ってきた感じはあります。均質化せざるを得ないことは寂しいですけどね」と話す。

 2008年に5周年を迎えた「にじ画廊」。吉田さんは「これからも展示をする作家、見に来る人の双方に喜んでもらえる店舗を目指す。手作りを中心とした作家たちが、活動の幅を広げる足掛かりになれば」と話す。

 最近2人が気になっているアーティストは、旅先で見つけてきたものを作品にする4人グループの「sunui」や、ユーモアのあるイラストを手がける堀道広さん、鎌倉を活動の拠点としている夫婦ユニットの「seto」。

 2月12日からは、ビビッドでドリーミーな模様風ペインティングなどを出展する金谷裕子展「長寿の子」を開催する(2月24日まで)。

にじ画廊
営業時間:12時~20時
定休日:水曜
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2‐2‐10
電話番号:0422-21-2177
HP:http://www12.ocn.ne.jp/~niji/index.htm

アートと人をつなぐ発信地「Art Center Ongoing」

 吉祥寺駅北口方面、ギャラリー・カフェ・ライブラリーを併設したアート発信スペース「Art Center Ongoing」がある。1階、2階、屋上とすべてスタッフやその知人の手によって作られたアート空間だ。

 同スペースは、代表の小川希さんが、学生のころから「将来アートスペースを作りたい」という思いを実現させたもの。「同世代の作家たちをつなげたい、レベルの底上げを図りたい」という思いから、公募企画展覧会「Ongoing」を開始。その結果、今日までに300人以上のアーティストとのネットワークを築きあげた。

 展示は、空間全体を使ったインスタレーションが多く、バンド「Kiiiiiii」の多田 玲子さんの「仮面ブドーのレース」や、資生堂のアートディレクターでもある成田久さんの「寝室展」など、個性的な展示を行ってきた。

 小川さんは開設当初から「現在のアートシーンは閉じている。どうにかしたい」と考え、アート情報発信の中心となる場所づくりを目指した。

 常設のライブラリーでは、誰でも自由に作家のポートフォリオを見ることができる。カフェは作家同士の出会う場所でもあり、また来店した人でも作家と気軽に交流し、くつろげるような雰囲気作りを心がけているという。

 小川さんは「吉祥寺では、若い人やカルチャーに興味のある人々に、アートが供給できていない」と考える。「この街には幅広い年代の人が集まっていますよね。最近は人も増えて、より魅力のある街になってきた。今は、アートが弱い印象があっても、これから発展する可能性が大いにあると思います。一般の人にもっと認知してもらい、気軽に入って利用してほしいですね」と話す。人と人がアートを通してつながる、新しいアート空間に期待したい。

 小川さんが最近面白いと思うのは、映像や立体、パフォーマンスなどで海外でも注目されているアーティストの和田昌宏さん。「世の中では平面作家が売れているが、空間全部を使ってインスタレーションをする作家にも面白い人が多くいる」とも。

 2月4日からは、下平晃道さんの個展「覚えたての空間」を開催する(2月15日まで)。


Art Center Ongoing (アート センター オンゴーイング)
営業時間:12時~23時(ギャラリーは21時まで)
定休日:月曜、火曜
住所:東京都武蔵野市吉祥寺東町1-8-7
電話番号:0422-26-8454
HP:http://ongoing.jp/index.html/

チェコとポーランド作家のための老舗ギャラリー「gallery ASTEION」

 昭和通りをまっすぐ進み銭湯・弁天湯の先にあるのが、チェコとポーランドの現代アーティストを専門とする「gallery ASTEION」。30年以上前から吉祥寺を知る西川仁さんがオーナーを務める、創業1991年の老舗ギャラリーだ。

 西川さんは、学生時代にリトグラフを学び、その後伊勢丹に勤務。趣味でヨーロッパのギャラリー回りをしているうちに気持ちが高じて、同ギャラリーのオープンを決めた。「当時の街には適度な品と、同時に遊び感覚があり、ちょうどよい雑多感も気に入っていた」のが吉祥寺を選んだ理由だった。集まってくる人たちからは余裕を感じることができ、その上、皆歩く速度がゆっくりだったため、人が暮らす街だと感じたという。

 「オープンした当時にあったいくつかのギャラリーが、すでに移転や廃業をしていったことがとても悲しい。これからもっと心のゆとりを感じられるような面白い場所が増えていけばうれしいですね」と語る。ギャラリー内は、西川さん自らが探し出したというチェコとポーランドの作家の作品があふれている。

 作品は、「街に来店する人が購入できる範囲のものを提供したい」という思いから1万~20万円(額装込み)の価格帯を設定。取り扱う作家は、カラフルな絵を得意とするアリツィア・スラボニュ・ウルバニャックさん、女性から人気の高いヴィエスワーフ・スキビンスキさん、柔らかな色合いの作品が多いベアータ・ギバゥワ・カペツカさん、心象風景をモチーフにした版画を制作するズビグニエフ・ビエールさんほか多数。

 中でも西川さんが愛してやまないのは、チェコの版画家・パヴェル・スクドラークさん。カラーエッチングという手法を用いた作品は、「微かな表情が凹凸に出るところが魅力」だという。

 2月10日までP.スクドラーク、V.スハーネックなど、チェコ版画界巨匠たちのカラーエッチングやリトグラフの展示「チェコ版画展」を行っている。

gallery ASTEION(ギャラリー アスティオン)
営業時間:11時~19時
定休日:水曜&第3火曜
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-26-9
電話番号:0422-20-0028
HP:http://www.asteion.co.jp/

ギャラリーを併設した雑貨店「PORTFOLIO」

 吉祥寺の公園口から井の頭通りを西荻窪方面に歩いていくと、雑貨&ギャラリー「PORTFOLIO」がある。半地下の店内には、クリエーター作品をメーンにビンテージ雑貨、アクセサリーやインテリアなどが並ぶ。奥半分がギャラリースペース、手前半分が作品などを販売する雑貨店スペースになっている。

 ジュエリーショップの職人だった店長・佐藤尚美さんと飯塚藍子さんが、昨年8月にオープンした同店。「有名無名関係なく、こだわりを持った『良いモノ作り』をしているクリエーターの作品を、多くの人に知ってほしい」という思いからスタートしたという。

 コンセプトは「新しいモノと古いモノとが自然に溶け合う空間」。そのため、手作り感あふれるものより、作りがきちんとしているクオリティーの高い作品を応援しセレクトしている。

 吉祥寺について、飯塚さんは「昔と比べると大型店舗が多くなったが、特色のある店、特に個人店は確実に増えている。北口は飽和状態だが、末広通り周辺はすてきなお店が増えてきたし、これから面白くなっていくのかもしれない」と話す。

 少し前に2人組の女の子が店を出た途端「癒されたー」と言っていたのが聞こえてきたという。佐藤さんと飯塚さんは「楽しんでくれたのが伝わってきて、本当にうれしかった」と喜びを隠せない様子を見せる。

 佐藤さんは「世の中には若手の作家さんは多くいるのに、発表の場が限られてしまっている。なかなか一般の方に見てもらえる機会が少ないので、そんな作家さんたちを紹介して引っ張っていけたら」と語る。

 今後2人が注目するアーティストは、ファッション誌でも紹介される金属とアートを組み合わせたジュエリーを作る「IZUMY」、シカの革を使用した花のアクセサリーや雑貨を作る「anemone」など。これからおすすめしたいという展示は、木と革の作品などを幅広く手がける「CEMENT」の「【MATERIAL ANTHROGY2009】-Play Wood-」(2月4日~3月2日)。

PORTFOLIO(ポートフォリオ)
営業時間:12時~20時
定休日:火曜
住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町2-13-13
電話番号:050-1465-9023
HP:http://www.portfolio.cx/index.html

ギャラリー巡りの色々なおみやげ

 ちょっとしたかわいいモノ、なんだか気になる面白いモノ、連れて帰りたくなるモノなどなど…記念に「おみや」を買ってきました。

写真左上から右に

PORTFOLIO colの「ヘアゴム」(2,100円) Art Center Ongoing 東野哲史さんの作品「わかめ人」(1,000円) gallery ASTEION アリツィア・スラボニュ・ウルバニャックさんの「ポストカードセット」(100円) にじ画廊 デハラユキノリさんの「ちび犬太ストラップ」(800円) にじ画廊 ツキミモザの「レターセット チョウチョと花畑」(609円) ギャラリーfève 「fève books 3 松浦弥太郎『10 essays』 」(1,050円)

■編集後記

 気取らないギャラリーが集まる吉祥寺。この取材を通して、魅力的なオーナーさんの人柄がにじみ出ている空間が多いと実感しました。

 今回紹介したギャラリー以外にも、吉祥寺にはまだまだ面白いギャラリーが数多く存在します。気軽にアートに触れることができる場所が、あちこちにあるのはうれしい限り。今年も私たちを刺激するクリエーターたちの作品が、次々と展示されていくことでしょう。新しい価値観を体感しに買い物の途中に、ふらりと出掛けてみては?

 次回は、「吉祥寺ART&CULTURE Vol.2」。吉祥寺に住んでいる人なら誰しも知っているあの劇場や書店、美術館をご紹介します。

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