2007年に策定された「吉祥寺グランドデザイン」が2019年度に改定を予定するのに伴うオープンハウスが3月30日、武蔵野商工会館(武蔵野市吉祥寺本町1)で開催された。主催は武蔵野市都市整備部の吉祥寺まちづくり事務所。
漫画家・映画監督の大友克洋さん。作品に影響を与えた吉祥寺の街について語った
「吉祥寺グランドデザイン」は吉祥寺の未来を展望し、商業活性化を中心とした総合的なまちづくりの方向性とビジョンを武蔵野市と市民が共同で定めたもの。改定委員会本部会や幹事会、エリアワークショップなどで議論を重ね、2020年度の改定作業完了を目指す。オープンハウスは今後行う予定のパブリックコメント募集を含め、グランドデザインを市民に周知し共有するために開いたもので、トークセッションとパネル展示で構成した。
トークセッション「未来につなぐ吉祥寺文化」には定員を超える応募があり、約100人が参加した。登壇者は松下玲子武蔵野市長、吉祥寺在住の漫画家・映画監督の大友克洋さん、吉祥寺で飲食店9店舗を経営する麦の野口満理子社長。対談は「吉祥寺の魅力、変化、将来」の3つのテーマを軸に進められた。
野口さんは、ジャズの店「サムタイム」や「ファンキー」(現在は飲食店)、ケーキ店などをはじめとする飲食店展開のこれまでの経緯とコンセプトを、スライドを交えて紹介。以前吉祥寺のバーで作家の村松友視さんと知り合ったエピソードなどを語り、「有名な作家が普通のおじさんとして存在している街」としての吉祥寺の魅力を挙げた。野口さんは毎年開催される吉祥寺音楽祭のジャズコンサートを担当し、同音楽祭2016年のポスター画の制作を旧知の大友さんに依頼している。
大友さんは吉祥寺在住。漫画雑誌の連載が軌道に乗り始めたデビュー当時、書店や映画館、レコード店、飲み屋などがある街を求め、文化人が多く住んでいた中央線のうち、交通の便が良く、希望に合う吉祥寺を選び住み始めたという。「子どもを乳母車に乗せて井の頭公園へ行き、その帰りに伊勢屋で酒を飲むという暮らしをしていた」と振り返り、パルコにあった書店やCDショップなどのテナントを頻繁に利用したという。大友さんの作品の制作スタッフが吉祥寺で飲食店を経営したこともあると話した。作品の中に登場する吉祥寺として、中道商店街にあったおでんやの女性を題材にしたり、作品「気分はもう戦争」では中道商店街の通りの風景を描いた。また、吉祥寺のビル屋上から見下ろしたほかの建物の配管などがたくさん連なった様子が、作品「アキラ」で描いた世界観に影響を与えたことなども紹介した。
吉祥寺の魅力として大友さんは、資料を探すための書店や映画館、飲食店などの文化があり、インターネットが台頭する時代であっても、「飲み屋に行くといろいろな人間に会える。これはネットでは経験できないことであり、自分の作家活動の重要な部分」と述べ、「人と人が出会う機会に恵まれている街。漫画でいろいろな場面を描くとき、最初に思い浮かぶのは人の顔。やはり人間の面白さに尽きる」と語った。
吉祥寺の変化について、野口さんは「時代の変化によって、どの街も同じような姿になりつつある中、井の頭公園やいつも行列ができる店など、吉祥寺には変わらないものがいくつもある」ことを挙げた。松下市長は、文化的なものが街にあるのが魅力であり、「市民だけでなく、それを求めて市外から訪れる人も大切にしたい」と述べ、街の将来については、「一人一人に吉祥寺への思いがあり、これからもマイ吉祥寺ヒストリーやストーリーが育まれる街であってほしい」と話し、最後に、吉祥寺のまちづくりと行政は市民参加で続いた長い歴史があることに触れ、「『住みたい街』よりも、『住み続けられる街』になることを目指す。グランドデザインに注目してほしい」と結んだ。